日本体育科教育学会

日本体育科教育学会第16回大会(日本体育大学)のシンポジウム並びにラウンドテーブルの要旨

  -- 11/05/28..No.[66]

■6月18日(土) シンポジウム 13:00〜16:30 (記念講堂)

 確かな学力の定着にむけた「指導と評価」の在り方について

[発表要旨]
○体育科・保健体育科における指導と評価の課題   
                   木原成一郎(広島大学)
 評価は教師と子どもの指導と学習の「実績と目標との関係をチェックし、調整活動のためのフィードバック情報を提供する」役割を果たす。子どもの学習評価の結果は、子どもの成績の情報に加え、教師の指導と子どもの学習の改善に役立つ情報を提供するのである。この情報提供の機能を活用するために、現在は「目標に準拠した評価」が学校教育の評価の基本とされている。
 このような評価の機能を正しく働かせるためには、目標の在り方が問われることになる。本発表では、目標に準拠した評価を活用するための前提条件となる体育科の目標構造はどのように考えられるのかについての提案を試みる。つまり、体育科の目標構造を到達目標と方向目標と体験目標に区分して提案する。特に、成績評価の情報を提供できる目標とできない目標の相違を区別することの必要性を述べたい。
 さらに、「目標に準拠した評価」の実施が、評価のための点検作業に終わらず、教師と保護者が子どもたちの学習の課題を共有できるようにするための留意点を提案する。

○新学習指導要領に基づく指導と評価の在り方   
                   佐藤 豊(鹿屋体育大学)
 目標に準拠した評価の導入は、学校現場に大きな変化をもたらしたといえよう。相対的評価から絶対評価への転換、質的評価の重視などの指導と評価の一体化の取組みは、学習評価の視点から、内容論の検討と方法論の変化といった逆流現象を生じさせている。
 一方、これまでの経験的な学習評価からエビデンスに基づく学習評価への急激な変化は、資料作成に重点が求められるなど、授業の主体者である体育教師の多忙感を生み、授業にあまり積極的でない教師からは、評価規準ありきといった批判も一部で見られた。
しかしながら、こうした批判を超えて、体育科教育が向き合うべき課題は、「体育では何を保証するのか」という質保証の視点であり、生徒の変化への実感が成否の鍵となる。
 平成12年度以降の「指導と評価の一体化」が「開発の10年」とすれば、これからの新学習指導要領下の10年は、効果的・効率的な学習評価を目指す「運用の10年」と位置づけられるのではないだろうか。これらの視点を踏まえて、新学習指導要領に基づく学習評価の方向性、単元の構造図作成を通した方策について提言する。

○ポートフォリオ評価とルーブリックの開発    
                     梅澤秋久(帝京大学)
 ポートフォリオ評価は、学習者自身が学びの履歴を蓄積して振り返り、次の学びの方向性を決定していく学習評価である。同時に、教員がその学びに寄り添い、より良いはたらきかけを見出す指導評価に活用するという性質も有する。すなわちポートフォリオ評価は、学習と指導と評価の一体化が図られる真正な評価法の一つである。
 体育科でポートフォリオ評価を用いる際は「基準準拠型」が一般的であろう。採点指針であるルーブリックを創る主体は教員であるが、ポートフォリオ評価は構成主義・社会構成主義的な学習と親和性が高いことを念頭におく必要がある。つまり、ルーブリックは既存の知識や技能を活用・再構築させるようなパフォーマンス課題とその評価基準表を組み合わせたものとなる。ポートフォリオ評価とルーブリックの適切な活用は、身体能力や運動技能に加え、キー・コンピテンシーにかかわる「多様な集団でのコミュニケーション能力」や「自律的に行動する能力」など21世紀型学力を育む学習指導を可能にする。
一方、ポートフォリオ評価とルーブリックの課題は、評価の一貫性を確保する「モデレーション」のシステム構築である。


■6月19日(日) ラウンドテーブル 9:30〜11:30
<第1会場>(2203教室)
テーマ:体育における競争と協同を考える―カリキュラム・ポリティクスの視点から

提案者:井谷 惠子(京都教育大学)
趣旨:
 スポーツの特性のひとつは「競争」「競技」にある。しかし、たとえエリートスポーツであっても排他的な競争だけで成り立っている訳ではない。むしろ、今回の震災以降多くのスポーツ関係が示したように、競争相手もまた仲間であり、選手として競技し続けるためのバックグラウンドには幾多の「協同」や「連帯」が存在する。
 一方、学習の質を高めるためには受容的で協同的な集団づくりが不可欠である。個性を認め合い伸ばし合える学習集団は、教師による一方向の教授の数倍もの教育成果を得ることもある。体育授業において、「競争」と「協同」は表裏一体の関係にあるが、どちらの側面に視点を置くかによって、学習集団の質や学びが大きく変わることが理解できる。
 このラウンドテーブルでは、カリキュラム・ポリティクスを理論的背景としつつ、リレーや体つくり運動などを具体例として、体育授業における競争と協同について検討を進める。

<第2会場>(3206教室)
テーマ:鬼遊びの教材化と授業づくりにおける系統性について

提案者:清水 将(東亜大学)
趣旨:
 ゲームやボール運動だけでなく、球技においても活用可能な鬼遊びの教材化や授業づくりを考える際には、どのような視点を考慮したらよいのかを学校現場の願いを紹介しながら議論したいと思います。多種多様な鬼遊びの持つ特性を考えながら、ボール運動や球技として必要な技能や戦術が楽しみながら身に付けられるようにするには、発育発達に応じてどのような課題を加えるのが適当なのかを伝承的な遊びの教材化を含めてみなさんとともに考えたいと思います。

<第3会場>(3204教室)
テーマ:「投げ技マイスター」を用いた柔道学習の提案

提案者:有山篤利(聖泉大学) 藪根敏和(京都教育大学) 
    藤野貴之(京都府教委) 中嶋啓之(京都教育大学大学院)
趣旨:
 今柔道というスポーツをめぐっては、中学校における必修化や活動中の事故多発などの課題に直面しており、多くの体育教員がよりよい指導法を求めて工夫を重ねている現状があります。そこで、今回は受け身の学習を取り上げ、「投げ技マイスター」と名付けた学習教具を用いながら、発見型柔道学習に依拠した学習プログラムを提案し、意見交流したいと思います。


<第4会場>(3202教室)
テーマ:運動技術・戦術指導における教育内容・教材の順序構造の構成方法論について

提案者:竹田唯史(北翔大学) 進藤省次郎(園田学園女子大学)
森谷直樹(文化学園大学) 近藤雄一郎(北海道大学大学院教育学院)
趣旨:
 体育科教育の中心的課題として、各スポーツの技術・戦術の指導が位置づけられている。この技術・戦術の指導については、これまで多くの研究や実践がなされてきている。しかし、依然として技術・戦術の内容・教材・方法の概念が曖昧で、それらを如何に構成して、すぐれた授業(わかる・できる授業)を作り上げていくかという方法論については未確立のままであると考える。我々は、1985年頃より、スポーツの技術・戦術学習における教育内容(認識対象)・教材(習得対象)・教授方法・評価についての教授学的研究を進めてきた。本ラウンドテーブルにおいては、その基本的な研究方法論の発表と、具体的な事例を提示し、技術・戦術指導についての研究方法論について議論を深めたい。

<第5会場> (3201教室)
テーマ:教師の体育授業に関する力量形成と授業研究

提案者:木原成一郎(広島大学) 松田恵示(東京学芸大学)
森敏生(武蔵野美術大学) 鈴木聡(東京学芸大学附属世田谷小)
趣旨:
 日本の体育授業研究は、1)日常的な校内研修、2)教育委員会が後援した学区ごとの研修、3)民間教育研究団体の研究等の形式で展開されてきた。近年、教師の授業力量の形成という点から1)日常的な校内研修で行われる授業研究が国際的に注目されている。ここで、再度これらの3つの形態で行われる授業研究が教師の体育授業の力量形成にどのような役割を果たしてきたのかを整理し、教師の力量形成の点から今後の体育授業研究の方向を議論する。
 日本の体育授業研究の特徴を明確にするために、イングランドで進められたカリキュラム開発における体育教師の成長の実際を比較の対象とする。今回は、1980年代から90年代にかけてイングランドで進められたTGFU(ボール運動の戦術学習)のカリキュラム開発を教師と共同ですすめられた、Len Almond(Visiting Professor, St Mary's University College, UK)氏のご発表をいただき、日本の体育授業研究や教育課程開発と比較してこの課題に迫っていく。

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